ベトナム奥地の学校-4 (長谷川義春)

サルの橋
私は、3枚の絵葉書を持っています。
1枚の絵葉書の裏面には、ベトナム語・英語・フランス語・中国語で《下校時の風景 -ドンタップ省(*訳注:カンボジアとの国境にも接するベトナム南部の省)》と説明書きがあります。メコンデルタなど水の豊かな地方において街路から外れた住民居住区に見られる橋で、2本の丸木を水中にX字形に立てて橋杭(はしぐい)にし、人が乗れるようにその上に1本の丸木を渡し、腰ぐらいの高さにもう1本の丸木を結びつけて手すりにしただけの、実に簡単な橋です。使用されている丸木は、細いものです。もちろん、人が乗れば橋杭は揺れますし、渡した丸木も重みでたわみます。子供たちは、テスリに署ルまってバランスを取りながら上手に渡りますが、バランス感覚が退化した老人や病人は、足がすくんで渡れないでしょう。地元の人たちは、こういった橋を俗に“サルの橋”と呼んでいます。

2枚目の絵葉書には、英語だけで「メコンデルタのクリーク(運河)を渡るには、ボートを使って渡るか、たくさんある“サルの橋”の一つをバランスをとりながら渡るかすることになる。」とあります。こちらの“サルの橋”は、1枚目の絵葉書の橋より高度も高く、水面に落ちた際の危険性も高いので、使っている丸木も太く、テスリも左右両側に2段に取り付けてあります。上の手すりは大人が署ルまり、下の手すりは子供が署ルまるのでしょう。しかしそれでも、丸木は古くなって雨に濡れると滑りやすく、私は過去に「雨季に、雨の中を“サルの橋”を渡っていた通学途中の学童が足を滑らせ、増水していた川に落ちて溺れ死んだ…」という新聞記事を読んだことがあります。
3枚目の絵葉書には、やはり英語で「竹の橋を渡るメオ族の女性。ベトナム北部サパ地方で。」と説明書きです。この“サルの橋”は、竹でできているのです。竹ですから、当然、人の体重がかかれば、大きくたわんで上下に揺れます。署ルまる手すりもありません。渡っている途中でもし体のバランスを失えば、即、橋の上から落下します。橋の下まで何メートルぐらいあるのか、定かではありませんが、それにしても怖いですね。絵葉書の女性を見ると、両膝を曲げて小走りに渡っているように見えます。おそらく、上下に大きく揺れる橋の上でバランスを失わないためには、両膝のバネを上手に使い、竹の揺れるリズムに合わせ一定のスピードを保ってすばやく渡ってしまうのがコツなのでしょう。まるで、一種の曲芸のようです。
説明書きが英語であることからも推測できるように、これらの絵葉書は外国人観光客を当て込んで作られたものです。ベトナムを訪れる外国人観光客といえば、ほとんどがいわゆる“先進国”からの観光客で、“先進国”にはこんな危険な橋は存在しません。だからこそ、外国人客の“ノスタルジア”をかき立てるのでしょうけれども、しかし“危険”と同居せざるを得ない住民たちの“貧しさ”を売り物にしているのは、少し“悲しい…”ですね。


