ポー・クロン・ガライ塔

 ニントゥアン省はベトナム南東部に位置していて、南シナ海に面しています。年間降雨量が少なく、低い丘や砂丘地帯が広がり、人口が少なく、産業は、塩生産、ブドウ栽培、ヤギの放牧等で、大きな産業はありません。原子力発電所の誘致は中止となり、現在、大規模な太陽光発電所、風力発電所の立地がすすんでいます。
 省都はファンラン=チャップタムです。ここには1485年から1832年の間、チャンパ王国の最後の首都がありました。そして、チャム族の神を祀るチャム塔が3か所残っています。ホア・ライ塔 (Tháp Hòa Lai)、ポー・クロン・ガライ塔 (Tháp Pô Klông-Garai)、ポー・ロ・メ塔 (Tháp Po Ro Me) です。
 写真は2015年8月に訪問したときのものです。

チャンパ王国

西暦192年、現在のフエ付近に林邑国が建国されます。林邑国は、隣国の扶南とともに4世紀以降に中国文明と並行してヒンドゥー文明を受容したと伝えられています。
 10世紀、ベト族がベトナム北部に「大越」を建てると、982年、チャンパ王ヴィジャヤ(Yan Pu Ku Vijaya)は現在のダナン周辺にあった都を現在のビンディン省の「ヴィジャヤ」に移し、ここは15世紀までつづく強力なチャンパ王国の首都となりました (ビンディン省のチャム塔 (Tháp Chăm) 参照)。
 その後、チャンパはヴィジャヤ王朝(現在のクアンガイ省、ビンディン省)とパーンドゥランガ王朝(現在のニントゥアン省、ビントゥアン省)に分裂し、1471年にヴィジャヤ王朝は大越との戦争に敗れ崩壊し、正統のチャンパ王国はパーンドゥランガ王朝に移りました。チャム王は周辺の自治を認められてきましたが、1832年、阮朝第2代皇帝・明命帝の中央集権化方針によってパーンドゥランガ王朝は断絶され、ここにチャンパ王国は滅亡します。

チャム塔

チャム塔については、ベトナムの声放送局 (VOV5) の「チャム塔とは」 をご覧ください。
そこで説明されているチャム塔の特徴は:

  • 土・水・火という三つの根源的な物質から変化してできるレンガによって神を祀る祠堂を作るという信仰に基づいている。
  • チャム塔はバラモン教の神様を祀るところで、常にとがっている塔の先は神々が住みつくところです。
  • 塔の各隅々には両手を上げて塔の屋根を支える神聖な「神の鳥」といわれるガルーダがある。
  • 壁面に施された装飾はチャム塔の特徴の一つです。チャンパ王国のその時々の勢力の盛衰を反映して、装飾が細かくなったり簡素になったりと、様々な変化を見せる。

 これらを念頭に、紹介する3つのチャム塔をご覧ください。

ニントゥアン省にあるチャム塔のマップ

チャム塔 (Tháp Chăm)

ホア・ライ塔 (Tháp Hòa Lai)9世紀に建てられ、全国で最も古いチャム塔のひとつ

国道QL1Aをニャチャン方面から南下してくると、左側に高い塔が見えてきます。
 チャム塔の多くは丘の上に建てられていますが、このホアライ塔(Tháp Hòa Lai)は国道と同じ平面に建っています。
 ホアライ塔は9世紀に建てられた全国で最も古いチャム塔のひとつで、もともとはノースタワー、ミドルタワー、サウスタワーの3つの祠堂があったそうです。

塔の脇を国道QL1Aが通っています。

 ミドルタワーは、19世紀にフランスと地方当局によって上部が解体され、そのレンガを敷いて道路 (現在の国道QL1A) が建設されました。いまミドルタワーは土台部分が残っているだけです。
 残っている2つの祠堂は荘厳で、ノースタワーのレンガの壁の表面には、鳥 (ガルーダ?) の顔、神話上の動物 (ゾウやサソリに見えます)、規則的な美しい文様などが刻まれています。
 しかし、ノースタワーの内部には何もなく、カビのにおいがして、コウモリが飛んでいました。

 多くの研究者は、チャムの人々がこの塔では長い間、崇拝していないと考えています。理由は解明されていませんが、クメールとチャンパの2つの王国の間の戦争で、この塔がクメールによって占領され、信仰の対象としては汚染されたからだと推測する研究者もいます。

ポー・クロン・ガライ塔 (Tháp Pô Klông-Garai)13世紀に建てられ、全国で最も美しいチャム塔のひとつ

遠くの丘の上にそびえるいくつかの赤茶けた建物が、次第に大きく見えてきます。
 チケットを買ってゲートをくぐると駐車場があり、左側には小さな博物館兼記念品売り場のある建物が建っています。
 真っすぐすすんだ正面、塔へ上る階段の上に、美しい3つの塔がありました。
 塔のかたち、頭頂部の豊かな装飾など、いままで見てきたチャム塔のなかで、たしかに最も美しい塔のひとつです。

いまでもチャム族のお祭りが盛大に行われています。

 ポー・クロン・ガライ塔は13世紀に建てられ、全国で最も美しいチャム塔のひとつとされ、チャンパ王国のポー・クロン・ガライ王(1151-1205年)を祀っています
 そして、ここはいまでもチャムのバラモン教徒にとって信仰の対象になっていて、年間を通して祭礼が行われ、そのなかでもカテ祭 (Lễ hội Katê;2017年に国家の無形文化遺産に登録) が盛大に毎年10月に執り行われています。

 チャム族の人口は16万人以上で、多くが中部のニントゥアン省とビントゥアン省に居住し、フーイエン省、ビンディン省、南部のアンザン省、ホーチミン市などにも住んでいます。
 ベトナムに居住するチャム族が信仰する宗教は主に、

  1. バラモン=土着のヒンズー教信者で、最も大きなグループ
  2. バニ=土着のイスラム教
  3. イスラム教スンナ派信者
  4. チャムホロイ=無宗教

で、ニントゥアン省のバラモンは4万2600人以上おり、省内の4県と都市に住んでいます。

 ポー・クロン・ガライ王は灌漑をすすめるうえで大きな功績があり、亡くなったとき、人々は王を崇拝するために塔を建てました。
 ポー・クロン・ガライ塔は、高さ20.5メートルのメインタワー、高さ9.31メートルのファイヤータワー、高さ8.56メートルのゲートタワーから構成されています。メインタワーの入り口には牝牛ナディン (Nandin) の石像が横たわり、内部には、シヴァ神を示すリンガヨニの前にポー・クロン・ガライ王の像が祀られています。王の顔は、妙にリアルです。

 

 カテ祭は、バラモン教を信仰するチャム族の人々にとって、最も重要な祭りです。これはチャム族の人々が祖先を崇拝する儀式を行い、神々に祈りを捧げ、雨を降らせ、人々が幸せで繁栄することを祈ります。同時に、それはチャム族の人々が伝統的な文化的アイデンティティを確認する機会でもあります。

「Đồng bào Chăm ở Ninh Thuận vui đón Lễ hội Katê năm 2018」(Công Thử (TTXVN/Vietnam+) 09/10/2018 12:03 GMT+7

 Tuoitre online の「YouTube: Tưng bừng lễ hội Katê Chăm Ninh Thuận (ニントゥアンでチャムのKate祭りを祝う)」で、実際のカテ祭の様子をご覧いただけます。

 ベトナムの声放送局 (VOV5) の「チャム族の遺跡の保存に取り組むニントゥアン省の活動」でも、「この遺跡はポクロンギライという王様をはじめ、チャム族の農業の発展に大きく貢献してきた神様の像が安置されていた所」として、紹介されています。

ポー・ロ・メ塔 (Tháp Po Ro Me)17世紀に建てられた、チャンパ王国 最後のチャム塔

集落を抜けると光景は一変し、ウシの群れとすれ違ったり、ヒツジやヤギが、草がまばらに生える草原で放牧されているのが見えてきました。草原の先には、低い山が見えます。曲がりくねった道の両側に生えている樹の向こうに丘が見え、その上に塔がのっています。青空をバックに、突如、中世のお城が出現したかのようでした。
 周辺に何もない広場の先に急な階段が丘へと上り、ポー・ロ・メ塔 (Tháp Po Ro Me) に続きます。塔のお守りをしているらしき男性が案内してくれました。入場料がないので、寄付をしてきました。

ポー・ロ・メ塔でもチャム族のお祭りが行われています。

 ポー・ロ・メ塔は、16世紀後半から17世紀初頭に建てられた、チャンパ王国の最後のチャム塔です。ポー・クロン・ガライ塔と同様、シヴァ神として神格化されたチャンパ王国のポー・ロ・メ王 (1627-1651年) を祀っています。ポー・ロ・メ王もこの地域の灌漑をすすめ、農業開発に優れた貢献をした王でした。
 1基のメインの塔があることしか気がつきませんでしたが、丘の上には、もう1基の塔が脇にあったようです。スーシィ女王 (hoàng hậu Sucih) の像があるらしいのですが、気がつきませんでした。
 メインの塔は、高さ・幅が約8メートルの正方形の塔に、3層構造の屋根が載っています。過剰な装飾を排しつつ、整ったかたちをしています。壁面にも、神々の石像が飾られています。

 東を向いた入口をはいっていくと、牝牛ナディン (Nandin) の石像が左右に、内側を向いて横たわっています。
 中は薄暗くよく見えません。薄い空色の壇があって、奥に、神棚のような赤い木の枠組みが見えます。その赤い木のてまえにある石のプレート(ヨニ?)の上に、光背(?)を持った高さ1.2メートルのポー・ロ・メ王の石像が黒光りして在ります。
 石像の王は、あごひげを伸ばし、スマートな体で、仙人のようです。阿修羅像のように8本の手があり、刀などの武器や宝珠を持っています。頭の真上には冠を被った3人の顔が積み重なり、その左右にもそれぞれ冠を被った顔(5人の王子らしい)が浮いています。そのあいだに、孫悟空が乗ったきんとん雲が漂っているかのようです。
 資料によると、王の石像の隣には約0.75mの少数民族エデ族あるいはクホー族のポー・ビア・サンカン女王 (hoàng hậu Po Bia Sancan người Ê Đê) の像 (高さ約75センチメートル) があるらしいのですが、見えませんでした。

 ポー・ロ・メ塔はいまでもチャムの人々の信仰の対象で、カテ祭 (Lễ hội Katê) などの祭礼が盛大に行われています。
 カテ祭(2017年)で、塔へお参りする人々の様子です :
  ⇒ Lễ rướt Y Chang lên Tháp PôroMe ( Katê 2017 )của Người đồng bào chăm Ninh Thuận

 丘の上からは360度の眺望が開け、地平線まで広がる草原と遠くの山々が見渡せました。逆に、ポー・ロ・メ塔は、周囲のどこからも拝むことができるんですね。
 塔を空から見た映像です:
  ⇒ Tháp Chăm Porome Ninh Thuận – Flycam toàn cảnh tháp Porome của người Chăm

チャム塔に興味を持たれた方は、

 チャム塔に興味を持たれた方は、こちらもご覧ください。
  ⇒ ビンディン省のチャム塔 (Tháp Chăm)

ベトナムの紹介(写真)

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