
バー・チュックは、チャウドック市から直線距離で30kmちょっと。カンボジアとの国境から5kmしか離れていない静かな村で、小高い丘を取り巻く道に沿って、小さな商店や住宅が点在しています。
1978年、カンボジアのポルポト軍はベトナム領土へ侵攻し、この付近の多数の住民を虐殺 (Thảm sát Ba Chúc) しました。
お寺に逃げ込んだ女性・子供を追ってポルポト軍兵士は銃撃し、このお寺では42人が虐殺されたました。
そのほか、多数の住民が、油をかけて焼き殺されたり、局部を竹の槍で串刺しにされたり、木の棒で撲殺されたりしました。
慰霊堂には、この周辺で虐殺された人々の頭蓋骨、大腿骨1,159体が安置されています。
まるい慰霊堂の内側の壁に沿って、3歳から15歳、50歳から60歳、40歳代女性など、年齢・性別で、白骨になった頭蓋骨、大腿骨が分類されてケースに保管されています。
それは人間の非道さの証拠であり、ふたたびこのようなことを起こしてはならないと、つよく訴えています。
チャウドック市からは西南西の方向に、右手にカンボジアとの国境を見ながら走ります。

小高い丘をサーキット状に時計回りしていくと、白い鉢のような建造物が見えてきました。バー・チュックの納骨堂です。

なかに足を踏み入れると、衝撃で、足がすくみました。360度、壁の内側には、1,159体の白骨化した頭蓋骨と大腿骨が、「ショーケース」に入って納められているのです。
3歳の子どもも、16歳の少女も、青年も、壮年も、60歳の年寄りもいます。小さい子どもが納められている「ショーケース」のなかは、小さい頭蓋骨でした。

納骨堂の隣にあるお寺では、まさか「侵攻してきたポル・ポト軍も、お寺にまでは入ってこないだろう」と考えて逃げてきた女性・子ども42人が虐殺されました。


納骨堂の隣に、ポル・ポトの犯罪の証拠を展示する史料館がありました。1部屋だけの小さな史料館です。ここには虐殺された人たちの写真、ポル・ポト軍がつかっていた「武器」、地図などが展示されています。


あれから40年経った村は、静かな生活でした。

なお、だれが虐殺したのか? ポルポト軍ではない、ベトナム側の自作自演だったと主張する人もいます。
最も戦慄(せんりつ)すべき「根拠」は、殺害された人々の多くがホアハオ仏教の信徒だったことだろう。ホアハオ仏教は、1930年代に旧チャウドゥック省(現アンザン省)で生まれた宗教で、教団は独自の政党や武装組織を持ち、共産党と対立した。南北統一直後のハノイ政府から見れば、教団の存在は南部の不安定要因であった。
中野亜里 大東文化大学教授 (現代ベトナム政治)『ベトナム戦争から40年:容易でない公的史観の修正』(Web論座、朝日新聞)より
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