ベトナム奥地・中部高原地帯の中学校(5)

 長年ホーチミン市に住んでいる長谷川義春さん(奥様はベトナム人)が、ベトナム奥地(中部高原地帯にあるコントゥム省[Tỉnh Kon Tum, 崑嵩省])で、中学校の寄宿舎を作りました。
 その「報告書」と新聞記事(日本語訳)を8回に分けて紹介します。

「米と漬物持参で分校へ 」(Mang gạo và dưa muối đến trường)
(《トゥオイ チェ新聞の記事》-3)

記事のなかに、大きな写真が載っています。

 「ゴクテーム中学デクノットB分校で生徒たちに授業する先生」と、説明書きがあります。


 錆付いたトタン屋根、天井を支えるだけの太さしかない丸木の柱、木の葉を1枚ずつ張り付けただけの壁、明かりを取り入れるだけの何もない窓……。
 この写真を見れば、この分校の校舎(?)がどんな造りになっているかよく分かりますね。

塩でご飯を食べる

 給食の時間になると、生徒は何十人かのグループに分かれて、あるグループは校庭に出て座って食べ、またあるグル-プは扉の陰でヌクマム(※訳注18)を1滴ずつ取り合いながら食べる。

 どのグループにも、プラスチックの容器に入れたご飯と食塩があるだけだ。
 スープがあったとしても、具の野菜は少ないのに食べる人は多いから、スープを入れた容器の底が容易に見えるスープだ。
 ごく稀に、 干し魚を甘辛く煮たオカズがつく日もある。
 それでも、子供たちは皆おいしそうに食べる。
 グエン ダン リン校長先生は、「178人の寄宿生は、毎日130~150キログラムの米を食べる」 と教えてくれた。

※訳注18:ベトナム人にとって、日本の醤油のような物。
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《義務教育について》

 チュウンソン山脈の奥深い森の中の学校で新しい学年を迎えることは、先生にとっても生徒にとっても、新しい試練の1年を迎えることである。
 連綿と続く深い山並みの中の学校で教える者と学ぶ者との物語は、きわめて大きな困難と、しかし深い人間愛とに満ちている。

 この記事は、日本の現在の社会状況とは大きく異なるベトナムの奥地、山上の過疎地における学校教育の困難さをよく伝えていると思います。
 一般的に、ベトナムは日本のはるか南にあって赤道にも近く、「年中暑い熱帯気候」と思われがちです。
 しかし、そこに住んでみればそう単純な気候ではありません。
 時期によっては、半袖シャツ1枚でデスクワークをしていると、寒くて過ごせない日々も何日間かは存在します。
 ベトナム南部、平地のホーチミン市においてさえそうですから、中部地方の山上ともなれば、その寒さはずっと厳しくなります。
 その地域で、基本的な衣類や食糧にも事欠く貧しい人々、しかもベトナム語とは異種の民族語で生活していて、学校教育を受ける上では大きなハンディを負った子供たちを対象に
学校教育を進めるのですから、大きな困難を伴うのは当然と言えるかもしれません。

 日本もその昔、明治時代に《義務教育》が制度化されて推進された当時、子供たちを学校で勉強させるよう親たちを説得に出向いた先生が、親たちから、

 「うちのような貧乏人の子倅(こせがれ)が勉強などして、何の役に立つのか!
 野良仕事も手伝わせずに遊ばせて、どうやって飯(めし)を食わせろと言うのか!!」

と怒鳴られて追い返されることも珍しくはなかった……という話を聞いた記憶があります。
 現在のベトナム奥地の学校で先生たちは、日本の明治時代に《義務教育》の理念に燃えて奮闘した先生方と同種の、あるいはそれ以上の困難に直面しながら、毎日を奮闘して
いるのでしょう。

 今から40年以上も昔、まだ“ベトナム戦争”が激しく続いていた当時、ベトナム南部から日本に留学してきたベトナム人学生の1人が語ってくれた言葉を思い出します。

 「私が日本に留学して受けたカルチャーショックの中で、いちばん大きなものの1つは、《義務教育》という言葉ですよ。
 教育が、それを受けられる条件を持った者の《権利》ではなく、すべての個人、1人1人の《義務》だということ、その考え方、その概念ですよ……。」

 あれから40年以上がたちましたが、私がベトナムの友人に聞いてまわったところでは、ベトナム語には、まだ《義務教育》に該当する言葉はないようです。
 もちろん、政府は学校教育の普及に力を入れてはいますが、まだまだ、その最先端にたって犠牲的に奮闘してくれる先生たちの存在なくしては、このような奥地の学校教育は進まないのが実状のようです…。

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